相続で遺族などが直面する煩雑な手続きの効率化が進みそうです。2024年3月から被相続人(亡くなった人)などの戸籍情報について本籍地が遠かったり、生前の転居などで請求先が複数あったりする場合に最寄りの役場でまとめて取得できるようになったのに続き、故人の財産を一括で照会できる制度が預貯金では2025年3月末をメドに、不動産では2026年2月に始まる予定です。それぞれの制度を活用し、相続手続きの参考にお役立てください。
■相続手続きに必要となる書類について
相続で財産の分け方を決める際は相続人を確定するため、故人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本をすべて集める必要があります。戸籍を遡れば、例えば故人に離婚経験があり前の配偶者との間に子どもがいるといったことが分かります。故人に転居などで複数の本籍地がある場合、子どもなど相続人はこれまで各地の役場に出向いたり、郵送で請求したりするなどしていました。すべての戸籍を集めるだけで数カ月かかることも少なくありませんでした。
しかし全国の市区町村と法務省をつなぐ「戸籍情報連携システム」が2024年3月に稼働しました。利用者が自分の居住地など最寄りの役場で申請すると、同システムを通じて例えば故人の出生時、転居時、死亡時の本籍地の役場から戸籍謄本をまとめて入手できるようになっているようです。
申請者は市区町村役場の窓口に出向いて手続きをする必要があり、戸籍謄本の取得に1通当たり450円かかります。交付までにかかる日数は役場等の対応に違いがありますが、本籍地があった市区町村が少なければ当日交付も可能とする自治体があれば、数が多いと1週間程度かかるとする自治体もあります。
相続手続きを円滑に進めるには、故人がどんな財産をどれだけ保有していたかを確認することも大切となり、遺言書を残していれば原則として遺言に沿って財産を分けます。多くの場合は相続人が自力で財産を調べたうえで、遺産分割協議で誰が、どの財産を、どれだけ引き継ぐかを決める事が一般的です。
まず預貯金は通帳やキャッシュカード、郵便物などを手掛かりに金融機関に口座の有無を問い合わせます。取引のあったことを確認できたら、死亡した日の残高証明書を請求します。しかし、相続人は心あたりに一つ一つ尋ねるといった手間がかかりやすく、故人の口座のあった金融機関すべてをカバーできているかどうかの懸念も発生します。
■相続時にマイナンバーを活用した「預貯金口座管理制度」をご存知ですか?
預貯金口座探しの負担軽減につながる可能性があるのが、マイナンバーを活用した「預貯金口座管理制度」です。個人が取引のある一つの金融機関で自分の口座をマイナンバーで管理することを申請し氏名、住所、生年月日といった本人を特定できる情報も提供してくれます。本人が希望すれば預金保険機構を通じて、口座のあるすべての金融機関でマイナンバーとひも付けることができます。
口座をひも付けた人が亡くなって相続が発生した際に相続人が一つの金融機関に照会すると、故人の口座情報が一括して通知されます。ひも付けを申請できるのは原則名義人だけのため、被相続人が生前に手続きをする必要があります。デジタル庁では2024年度末ごろに稼働させる予定で調整しているようです。
■相続時に活用したい「所有不動産記録証明制度」について
相続財産で預貯金と並んで金額が大きい不動産でも、物件を一括して照会できる「所有不動産記録証明制度」が2026年2月2日にスタートする予定です。法務省が登記簿の名義人ごとに全国の所有不動産をリストにするものです。名義人が保有している土地や建物の種類、所在地、面積といった情報を一覧できるようになり、名義人のほか相続人などが情報を請求できる制度です。
故人の保有不動産を調べる方法としては現在、固定資産税の納税通知書を確認したり、市区町村が固定資産課税台帳を基に不動産の所有者別にまとめた「名寄帳」を閲覧したりするなどがあります。しかし、いずれも管轄内の物件に限られています。新制度は全国の不動産が対象のため、故人の不動産の全容を把握しやすくなりそうです。
■相続時に活用したい「生命保険契約照会制度」について
生命保険では生命保険協会が提供する「生命保険契約照会制度」があります。生命保険協会が契約の有無について生保各社に調査を依頼し、結果をまとめて回答する制度です。上場株式や上場投資信託(ETF)などの口座は証券保管振替機構の「登録済加入者情報」に開示請求をすれば、どの証券会社にあるかが分かります。非上場の投信などは対象外となります。
戸籍集めや財産調べは相続開始から2~3カ月以内に終わらせたいものです。故人に多額の借り入れがあることが分かったとき、相続人は預貯金などの資産も負債も引き継がない「相続放棄」をしたり、資産の範囲で負債を相続する「限定承認」をしたりすることができますが、相続開始から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。また相続税の申告・納付は故人が亡くなった日の翌日から10カ月以内が期限となっています。故人の財産が基礎控除(3000万円+600万円×相続人の数)を上回ると課税対象となり、ただ自宅の土地の評価額を一定の条件で8割減とする特例や、配偶者は相続額が法定相続分か1億6000万円のどちらか大きな額までは課税されない特例があります。遺言書がない場合、特例が適用されるには期限までに遺産分割協議を終え、分割協議書を作成することが条件となります。
いずれにせよ、相続時には様々な照会制度があります。今後の参考にお役立てください。
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